デザイナーをしていると「デザインのやり方を教えて!」と言われるのですが、そもそも「デザイン」とは何でしょう?一つのブログ記事ですべてを説明することが難しい壮大なテーマですが、かいつまんでわたしにとってのデザインについての考え方を書きたいと思います。
まず最初に言いたいことは・・・
ということです。アートは自分の感覚や感情、思想などを形にして表現するものが多い一方、デザインとは、誰かの要望を叶えるものであったり、何かの不便を解消する「問題解決」であると明確に区別が出来ると思っています。例えばバンクシーのアートの多くは落書きの一種とされ、バンクシー自身の思想等を表現するものが多いですが、その作品自体が直接利益を生んだり誰かの要望を叶えるものではなく、デザインということはできません。
ざっくりとした例ですが「友達のお店の看板を作った」というのはデザインです。
デザイナーはクライアントの要望を聞き、それをどうしたら叶えられるかを考えて実現させることが仕事です。
「看板を作って通りがかりの人に入ってもらえるお店にしたい」
「こだわりの逸品を多くの人に知ってもらいたい」
看板を例にすると、お店に入ってもらうのが目的です。
・お店の立地
・看板をどのように設置するのか
・どれくらいの人通りがあるのか
・ターゲットの性別/年齢層は・・・
挙げるとキリがないですが、まず看板をターゲットの視界に入れなければなりません。
どういう色を使ったら視界に入るか、その看板でお店の世界観を感じてもらい、興味をひかせ、そして足を店内に誘導するにはどうすれば良いのか。
たかが看板と思われがちですが、要望を叶えるデザインにするためには考えなければいけないことは沢山あります。
デザインにはアイキャッチとしてイラスト等を用いたりするので、アートの要素があるように思えますが「こういう雰囲気を伝えたい」とか「ここを装飾して、こういう見せ方にしたい」というのは、目的を実現するための手法です。
なので、絵が上手だからデザインが出来るとは限りません。
見た目だけにこだわって、目的を考えるという大前提をないがしろにすると薄っぺらいものになってしまいますし、すぐに作り変えが必要なものになってしまいます。
色彩感覚を身に着ける、余白感をもつ、適したフォントを使用する、ソフトの使い方を覚える、それらは頭で考えたイメージをデザインとして具現化するためのスキルであり、それそのものがデザインではありません。
パンフレットや広告だったら「この商品を売りたい」、お店のホームページだったら「来客に繋げたい」等々・・・どういう目的で使用してどういうゴールを描きたいのか、デザインには必ず「意図」が含まれます。
モノゴトの本質を見極め、そこにデザイナーとしての自分の視点を加えて価値を創造しましょう。
クライアントが満足するだけではなく、そのデザインがどう利用されるのかを中長期的に考える必要があります。
自分がやりたいことをやるのではなく、使用する人のことも考えながら設計していくのがデザインです。
「ホームページを作りたい!」の言葉の奥には、必ず「〇〇をする」という目的があります。
何のためのホームページを作るのでしょうか?
企業のサイトであれば、事業内容を紹介するページや会社情報を掲載するページが欲しい。
飲食店のサイトであれば、メニューや営業時間、アクセス方法を紹介して集客をしたい。
ECサイトであれば、〇〇を売りたいというような明確な目的が存在するはずです。
デザイナーであれば、直接的なクライアントは企業や飲食店のオーナーになります。
直接的なクライアントの要望を叶えることは絶対条件ですが、「クライアントがデザインの雰囲気に満足した」ということがデザインの目的ではありません。
アピールしなければならないのはクライアントの更に先にいるクライアントです。
そのクライアントのクライアントが、どのようにしたらそのWebサイトで目的を達成出来るかを考えながらデザインする必要があります。
例えば飲食店のWebサイトであれば、そのサイトを見た人がここに行きたい!と思うような魅力や要素をアピールしなければなりません。
「クライアントが満足したから良いデザインが出来た!」と思いがちなのですが、目的が達成できないサイトであれば、ただの自己満足になってしまいます。
どこの会社の、何歳くらいの人がどれくらいの大きさのディスプレイで、一日何回開いて、そのシステムを何年くらい使うのか・・・を考えてみましょう。
ストレスなく入力するにはどのようなレイアウトにすればいいのか。可能な限りマウスの移動を減らすにはどうすればいいのか。
デザインの手間を減らすフレームワークも出回っていますが、全ての案件で対応できる訳ではありません。
ボタンを押すときに1秒のアニメーションを入れるとします。
そのボタンを1日10回押すとして、1週間で50秒、1か月で200秒(3分)、1年で40分、それが100人規模の会社で毎日使用するとすれば、1年で66時間近くそのアニメーションを見つめることに費やすことになります。
画面上で見た目を作って終わりではなく、どのように運用されるかも考えてデザインすることが必要です。
否定から入らないで、どのような意図で作成されたか考えてみましょう。
もしかしたら、良くないと思うのは自分がターゲットではないからなのかもしれません。
例えば赤ちゃん向けのおもちゃは何故カラフルで賑やかなデザインになっているのでしょう?
・赤ちゃんは赤、青、黄など視認性の高いカラフルな色を好む傾向にあるから
・赤ちゃんは形がはっきりとしたものに興味を示すから
個人差もありますが、多くの赤ちゃんの興味を引かせるために「見え方」が研究されて、それがおもちゃのデザインに反映されています。
質の良い木製の知育玩具もありますが、高級感があってもこのようなカラフルなおもちゃを自宅のインテリアとして購入することはほぼないかと思います。
「この商品はどういう人に向けて売りたいのか」を「デザインから逆算」して販売戦略を考えてみると非常に勉強になります。
質の良い木製の知育玩具は、どのような販売戦略なのでしょうか?
ターゲットは赤ちゃんですが、赤ちゃん自身が購入するわけではありません。
・出産祝いやプレゼント
・自宅でも良質なおもちゃで遊ばせたいと考える親が買い与える
などなど、使用する赤ちゃんの性別や価格帯、渡すシチュエーション、一つのおもちゃを見てみても様々な要素が考察できます。
さて、その知育玩具をアピールするチラシを作ろうと思った時に、赤ちゃん向けにデザインするでしょうか?
赤ちゃん自身が購入するわけではないので、基本的にターゲットは大人に設定されます。ですから、赤ちゃん向けの商品だからといって、赤ちゃんの興味を引かせるチラシのデザインである必要はなくなります。
赤ちゃん向けの商品の例は極端ですが、この例だと赤ちゃんにとっては「このデザインよくないな」という状態になるはずです。
デザインというものに正解はありません。
思った通りの効果が出なかったという場面もありますし、運用途中で販売戦略が変わることもあります。
デザイナーがデザインを作って終わりではなく、デザインは作った後に動き始めます。
思った通りの効果が出なかった場合は何故その通りにならなかったか分析し、改良する余地があります。
思った以上の効果が出た場合も、効果を継続するためにはどうすればいいのかを検討し、ブラッシュアップすれば更に良い方向に導けるでしょう。
まとめると、デザインとは「物事の本質を見極め目的に誘導すること」だと思います。